詩 駅から駅へ

駅から駅へ

電車が走り出す

今日の悲しみを乗せて

明日の憂鬱を乗せて

昨日の怒りを乗せて

電車は走り出す

無機質な車体に

ねっとりとした人間を乗せて

どろどろしていて、臭くて、なまけもので

法則通りに行かない人間を乗せて

電車はどこにも行かない

始点から駅から駅へ

終点を目指すだけだ

無機質な車輌と

甲高いブレーキ音

銀色をした車体と

オイルにまみれた台車

錆びた線路に

妙に明るい信号機

プラットフォームから絶望した人間が飛び込む

無機質と有機質がぶつかり

車体と線路の間に人間を巻き込みながら

「それは悲しくて邪悪なもの

自分が巻き込まれませんように」

でも、車体の中にいるものと

車体の下にいるものとは

それほど違いはない

運が良かったか、運が悪かったか

巻き込まれたのは車体か、それ以外のものか

その違いに人間は恐怖する

それが人間というものだ

それだけが人間を有機質にする

そして、それが生きているという事だ

恐怖だけが人間を律し

喜びだけが人間を高いところへ運ぶ

駅から駅へと行くだけが人間ではない

人間は線路を外す事も出来るのだ

法則通りに行かない人間は

法則を壊し、法則を変え、法則を作る事が出来るのだ

無機質な車体は生きていない

恐怖も喜びもない

そして有機質だけが

無機質を支配出来る